独立して起業の準備をしている方やフリーランスとして起業の準備を考えている方にとって一番大きな悩みが「何から始めたらいいのか」という問題でしょう。起業するにはまず登記手続きなどあるのは知っていても、何をどうしていけばいいのかなどの手順は分からないことだらけです。
この記事ではこれから独立して起業の準備をしている方やフリーランスからどう起業準備をすればよいのか悩んでいる方に、わかりやすく起業の手続きや手順を徹底解説し、知っておくべき起業準備リストなどを紹介していきます。
起業の手順とは?
“起業の手順”とは、ざっくり言っても行うべき手続きはたくさんあります。そもそも手順を踏んで簡単に起業できればよいですが、現実問題として色々なことを同時並行で進めなければならないため、独立して新しい事業の起業準備をしている方などは時間との戦いになることが多々あります。
そうならないためにも、まずは起業準備リストを考えましょう。このリストでは起業の準備をする前に考えておくべき6つのことについて解説します。
起業準備リスト – 起業準備前に考えたい6のこと
起業準備リスト1: 事前にマーケットリサーチ(市場調査)を徹底的に行う
マーケットリサーチとは自分が想定している市場で競合他社がどれくらいいるのか、その企業の価格設定や強み、市場にある需要や購入者数の規模などを事前に調査しておくことです。
「そんなことあたりまえじゃないか」と思うかもしれませんが、意外とこれができていないスタートアップの起業家や個人事業主の人が多いです。というのも、過去の経験に基づく自信と勢いで「きっとこんなビジネスが今の社会に求められている」と思い起業の準備に乗り出すのですが、実は競合他社がすでに存在していることに起業してから気づく、といった話が本当に存在します。
まずは簡単でもよいので自分で起業の準備を始める前段階として自分でマーケットリサーチを行ってみましょう。その中で自分の強みや商売道具に優位性があるのかどうかわかります。また、スキルやサービスの質では敵わなくてもコスト削減によって優位性のある事業展開が可能になるかもしれません。ここである程度の確信ある情報が入手できたら、起業の準備のひとつとしてプロの業者に市場調査を依頼したり、場合によっては経営の先輩や成功者などにメンター(指導者・助言者)をお願いするのもよいでしょう。起業の準備を始めてしまったからと言って後戻りできないことはありません。大きな損失を招く前に最低限の出費で損切りすることも起業の準備に大切なことです。
起業準備リスト2:事業計画書を綿密に作成する
自分の事業にある程度の自信と確信がもてたらまずは事業計画書を作りましょう。「事業計画書を作るなんて当然だ」と思うかもしれません。ただ、ここでは起業の手続きを始める超初期段階で作ることをおすすめします。
起業を思いつくとワクワクして明るい将来を思い描くものですが、事業計画書を作成することで自分の考えていることが楽観的なのか、エビデンスに基づいているものなのか客観的に俯瞰して考えることができます。この時点で問題点や改善点が見つかれば事業計画書をさらにブラッシュアップすることができ、実際に融資を依頼しなければならない場面で綿密な事業計画書を披露することができ、十分に練られた、計画性のあるビジネスプランであることがアピールできます。
融資や出資の依頼は多くの起業家が通る重要なステップで、事業計画書が生命線とも言えますので妥協なく起業の準備段階から起業資金の調達方法について徹底的に考えることをお勧めします。
起業準備リスト3:資金計画は準備しても、しすぎることはない
スタートアップの起業家でよくある失敗がコストを楽観的に見積りすぎることです。多くの人が起業の手順のなかで資金繰りに苦労します。「これだけ素晴らしいビジネスだから出資してもらえるだろう」や「単価を××に設定すればいけるはず」と楽観的に考えすぎてしまうことで後ほど想定外の事態に遭遇すると対応ができなくなってしまいます。
まずは起業にかかる費用を見積もるだけでなく、創業後のランニングコストがいくらくらいになるのか、損益分岐点はいくらなのか、いくらの資金提供で利益が回収できるようになるのか、などクドいくらいに自分に問いかけましょう。
例えば過去にあった例がインスタントラーメンのキッチンカービジネスです。脱サラして起業したAさんによると、インスタントラーメンは単価も安くて在庫は腐らず、メニューも絞るため出費も少なく済むと見込んで起業しました。値段は最低価格に設定し、キッチンカーでショッピングモールなどを回って家族連れをターゲットにし、当初は上手くいきましたが、冬になるとプランが崩れ始めます。冬になれば寒い中でラーメンを欲しがる家族連れが多いと読んでいたのですが、実際は寒い中わざわざインスタントラーメンを求める人はおらず皆直帰してしまったのです。薄利多売のビジネスモデルでいけるだろうと楽観的に見積もっていたため、最低限の資金しか用意していなかったAさんは、想定外の事態では打てる手段がなくなってしまいました。この結果、Aさんは1年も持たずに事業をたたむことになってしまいました。
資金で苦労しないためには、綿密にプランA、プランB…と想定される事態に応じて資金計画を考えておくことが大事です。仮に融資を受けられればプランA通りだが、そうでなければプランBとして起業の助成金や支援金、創業補助金を申請する、プランCは自分の貯蓄を使う…などのように色々な事態を想定しましょう。
起業準備リスト4:顧客を十分に理解する
自分の事業を思いついたらそれを利用する想定の顧客をしっかりと考えましょう。いったい誰に向けたサービスなのか、なぜその人たちはあなたのサービスを利用しなければならないのか、などしつこいくらい自分に自問自答してください。ターゲットとする年齢層や性別、ユーザータイプなど事細かく分析することが大事です。
また、お客さんのマインドセットを理解しておくことも必要です。自分のビジネスを利用するユーザーやお客さんはどのようなことを考えて利用するのか、その心理を理解しておけば売れるものを正しく売ることができます。
過去の事例を言うと、九州出身のBさんは地元のおいしいものが食べられるダイニングバーを東京で開業しました。過去に居酒屋で働いた経験から、人口の多いエリアで半個室でリラックスできる空間を提供し、やや高めの値段設定にして中間層から富裕層をターゲットにしました。Bさんはお金を持っているビジネスパーソンなどをターゲットにするつもりで新宿のビジネス街に店舗を構えましたが、これが間違いでした。というのも、多くのサラリーマンは終電前に帰れるよう駅の近くの居酒屋などを選ぶ傾向にあり、なおかつ新宿といえども週末になるとビジネスエリアは人が少なく、富裕層のお客さんはわざわざ休日に新宿まで足を伸ばそうと思わないため、Bさんの店舗は書き入れ時を逃していたのです。Bさんのやや高級志向の店は新宿のビジネス街で働く客層が求めているものに合っておらず、結果としてBさんは撤退を余儀なくされました。
このように起業の準備段階で自分の起業アイデアだけでなく、自分のサービスを利用する顧客についても十分に理解することがとても大事になります。
起業準備リスト5:マーケティングの重要性
ソーシャルメディアの発達によりマーケティング活動は以前よりもはるかにやりやすくなりましたが、必ずしもマーケティングが楽になったわけではありません。正しい方法で正しい人たちを狙ってマーケティング活動ができないと効率が悪く、業績向上につながりません。
自分の製品やサービスを効果的にプロモートするには適切なマーケティング手法やツール、戦略が必要になります。
起業の準備段階では次のようなことをマーケティングで意識するとよいでしょう。
- どのようなコンテンツを利用者に届けたいのか
- どんなマーケティングツールを使うのか
- コンテンツの発表スケジュールとタイミング
- マーケティングコンテンツは誰が作るのか
- マーケティングで期待する成果とは
SNSが流行っているからと言って闇雲に投稿していても必ずしも売り上げに結びつくとは限りません。多くのSNSは無料で利用できますが、コンテンツを考える時間など貴重な時間を投資することになりますので効率よく行わなければなりません。例えばコンサルタントであれば顧客からよくある質問について解説したコンテンツをブログで展開しつつ、メルマガでより深いデータやエピソードを週1、2回行うだけでも大きな効果が期待できますし、SNSマーケティングとしてインフルエンサーとコラボをするのも業種によっては効果的かもしれません。
マーケティングは一朝一夕で成果が出るものではありませんので起業の準備段階から綿密に計画する必要があります。
起業準備リスト6:全て自分でやることはできないと知る
これもよくある間違いですが、起業したからには責任を全て負う覚悟で始めた結果すべてを自分で行おうとしてしまうことがあります。ただ、自分一人ではさすがに全てを行うことは難しいです。
ビジネスパートナーなどがいれば作業の分担ができますが、自分一人の場合はひとりで抱えすぎず、“レバレッジ”をかけることを意識しましょう。レバレッジとはテコの原理でいう“テコ”のことですが、お金を使って効率を上げることをビジネスや投資の世界で“レバレッジを効かせる”と言います。
例えば起業の手続きは自分でもできますが、お金を払って司法書士や行政書士にお願いすることはレバレッジのひとつです。さらにマーケティングプランを自分で考えるのもよいですが、必ずしも自分が行う作業でなければこれを誰かに委託し、自分はより重要な製品開発などに時間を費やす方が効率的でしょう。
このように起業の準備で大事なのは、自分一人だけでは全てできないということを自覚した上で自分の貴重な時間と資金を何に費やすのかを取捨選択することにあります。起業の成功例として、よく挙げられるApple社の創業者であるスティーブ・ジョブズ氏は生前「我々が成し遂げた事と同じくらい、実行しなかった事を誇りに思う」と振り返っています。また、著名なアメリカ人投資家のウォーレン・バフェット氏も「成功する者とそうでない者の違い、それは成功する者は多くのことにNOと言う」と述べたとされており、限られた時間において取捨選択することの重要性を説いています。
起業手続きと手順
次に実際に起業手続きを始める際の手順について解説していきます。
まず起業準備の段階で決めなければいけないのが、個人事業主として起業するか法人として起業するかです。法人とはいわゆる会社ということですが、個人として活動するのと会社を設立して起業するのとでは、それぞれ長所と短所があります。
個人事業主としての起業手続き – 比較
個人事業主のいいところ
個人事業主として起業の準備をするのは法人に比べて簡単かつコストもおさえられます。まず個人事業主の起業手続きの場合、税務署に『個人事業の開業・廃業等届出書』を提出すれば完了し、なおかつ無料で行えます。さらに、個人として開業すると税金は確定申告で個人の所得税だけを計算すればよく、社会保険料などの納入も義務ではないため出費も少ないです。そのため副業として起業したい方には適しているといえます。
さらに個人事業主は青色申告特別控除が適用できるのも利点です。青色申告とは事業や不動産などの売上から仕入れなどの経費を差し引いた所得金額からさらに最大65万円を引くことができる仕組みのことです。青色申告を行えば赤字が3年間繰越せたり、配偶者や子供に青色事業先住者給与を支払うことで経費とすることができるため、一定の節税効果が得られます。青色申告を行うためには「青色申告承認申請書」を税務署に提出し、承認を受ける必要があり、開業の日から2ヶ月以内に提出しなければならないので、起業の準備段階から申請書の準備をしておきましょう。
個人事業主のわるいところ
一方、個人事業主のわるいところですが、事業が軌道に乗り収益が増えた場合、増益に応じて所得税も増えてしまう点にあるでしょう。また、2023年10月からインボイス制度が導入され、これまで1000万円以下の収益の個人事業者は免税事業者として消費税の納税が免除されていましたが、インボイス制度の登録事業者になると消費税を顧客から徴収する必要が出てきます。免税事業者のままでいると顧客やクライアントが業務を継続してくれないかもしれないリスクがあるため、インボイス制度に申請するかが問題になります。
個人事業主でも節税効果はあるものの、青色申告は時間がかかります。また法人に比べて経費として控除できる範囲が狭いため、業種によっては大きな節税効果が得られないこともあります。
法人に比べて社会的信用が劣る可能性もあり、大企業と取引できなかったり、融資が受けられなかったり、創業助成金・補助金などの受給資格がないなどの可能性もあります。
個人事業主のいいところ:
- 起業の手続きが簡単でコストが抑えられる
- 青色申告である程度の節税効果
- 所得税だけの納税で出費が少なくできる
個人事業主のわるいところ:
- 収益次第で納税額が増える
- インボイス制度によって先行きが不安定
- 大きな節税効果が得られない可能性
- 社会的信用が劣る可能性
- 融資や助成金・補助金を受けられない可能性
法人としての起業手続き – 比較
法人のいいところ
起業資金を用意し法人を設立する場合、大きな節税効果が得られるのが最大の利点でしょう。会社の赤字は最長で10年間繰り越すことができます。そのため、創業当時は赤字になってもその後に発生した利益に対する法人税の税負担を減らすことが可能です。上記の通り、個人事業主の場合は3年間だけですが、法人だと10年間もあります。
会社が納める税金は法人税で、これは税率が原則一律なので利益が増えても所得税のように累進的に課税されません。もしも所得が低いのであれば個人事業主がよいですが、所得が多いなら法人にした方が納税額が低くなる可能性があります。
また法人は社会的信用がつきますので創業融資を受けられるだけでなく、中小企業を対象とした地方自治体の助成金や支援金、創業補助金を受給することができることができます。
法人のわるいところ
法人のわるいところとしては、手続きとコストが大きくなることです。法人を開設するには税務署だけでなく法務局や地方自治体にそれぞれ提出する書類が増え、起業の手続きが複雑化します。また、個人事業主なら所得税の納入のための確定申告で済みますが、法人税の申告書は自分で行うには難しいので行政書士などの専門家に任せることが多くなり、ここでコストも増えます。
中小企業になるので社会保険料などを納付することが義務付けられます。また従業員などを雇う場合には労働保険なども発生してくるためこの会社設立費用も見積もる必要があります。
法人のいいところ:
- 大きな節税効果
- 赤字は最長10年間繰り越せる
- 法人税率は一律なので納税額が低くできる可能性
- 社会的信用がつく
- 創業融資だけでなく創業助成金・支援金など受給できる資格がある
法人のわるいところ:
- 起業手続きの手間とコストが大きい
- 作業が複雑で専門家の手助けが必要
- 社会保険料など負担しなければならない
- 雇用すると労働保険や年金などのコスト増
個人事業主の起業手続き・手順
上記の通り、個人事業主の場合税務署に『個人事業の開業・廃業等届出書』を提出すれば起業方法の手続きは完了します。
青色申告を行う場合、『青色申告承認申請書』を税務署に提出し、承認を受けなければなりません。
また、個人事業主の方でも従業員を雇うケースはあるでしょう。正社員でなくともアルバイトなど非正規雇用という形で雇うことは多々あります。従業員を雇う場合、従業員の給料から徴収した源泉所得税を毎月納付しなければなりませんが、従業員が十人未満だと半年に1回ずつ納付できる特例がありますので、こちらも申請しておくとよいでしょう。また、家族を従業員とする場合は上の青色申告に含まれ、原則として雇用保険や労災保険などの対象にはなりませんので、こちらも覚えておくと良いでしょう。
法人の起業手続き・手順
会社を設立するために必要な手続きは主に定款と登記で、起業手順としてはさきに定款を作る必要があります。
定款とは会社の組織や運営に関する基本的な規則を定めたもので、会社名(称号)や事業内容・目的、所在地や会社期間(株主総会など)、事業年度の事項などを定める必要があります。定款はその法人の所在地を管轄する公証役場の公証人による認証を受けなければなりません。
その後、登記の手順に入るわけですが、これは法務局で行えます。登記には認証済みの定款と登記申請書、登録免許税納付用台紙、払込証明書、発起人の決定書、就任承諾書、取締役の印鑑証明書、印鑑届書などを提出する必要があります。多岐にわたる文書が必要になるため司法書士に代行を依頼することになるのが通常ですが、司法書士にお願いするメリットは電子定款に対応している点です。定款は紙として提出すると印紙代が4万円もかかりますが、司法書士は電子定款に対応していることがほとんどなので電子化すると印紙代がかかりません。
登記が完了したら会社設立2ヶ月以内に『法人設立届出書』を管轄の税務署に届ける必要があります。この際、定款と登記事項証明書、株式会社なら株主名簿、設立趣意書、設立時賃借対照表も提出しなければなりません。
起業の手続き:健康保険や厚生年金
会社は規模に関係なく健康保険と厚生年金の加入が義務づけられています。そのため地域の年金事務所で手続きを行いましょう。
会社設立から5日以内に「健康保険・厚生年金保険新規適用届」などの各種届出書を会社の登記事項証明書の原本を添えて提出する必要があります。他にも役員や従業員に扶養者がいる場合は被扶養者用の書類を提出する必要があるなど多岐にわたる書類が提出されますが、提出期限が5日以内と短いので起業の準備段階であらかじめ用意しておくのがおすすめです。
起業準備・手続き-まとめ
この記事では起業の準備で知っておくべき情報をまとめ、起業手続きを手順ごとに解説してきました。起業の手続きは個人事業主か法人かで大きく異なり、それぞれいいところ・わるいところがあるので自分に合った事業形態を選ぶ必要があります。
また、起業の手続きを実際に始めると書類の提出期限などに追われて時間がなくなりますので起業を準備している段階であらかじめ出来るだけの用意をすることが肝要になります。
本記事では起業するまえに考えておくべきことについて起業準備リストを作成しましたので、起業の準備されている方や起業を検討されている方はリストをしっかり確認して自分の事業計画に反映させるようにしましょう。